⭐エピソード集

 施設で暮らす子どもたちや職員との関りにおいて、日常の何気ない場面の中でも、時折ハッと気づかされ、学ばされる場面(エピソード)が実は沢山あります。

 ここでは、職員が、子どもたちとの関りを通して、また、共に働く職員の姿を通して学ばされたこと、気づかされたこと、考えさせられたこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、反省したことなどの体験談(学びや気づきを含む)を載せてまいります。

 聖ヨゼフ寮の職員にとって財産の一部と言えるものですが、分かち合うことで生かされるものでもあるので、拙いエピソードをご紹介いたします。

Episode 1 8歳・男児

幼児だった頃から、自分がしたくないことを求められると、露骨に嫌な顔をして、ぷいっと、それこそ典型的な「そっぽ」を見事に向くのが得意なK君。カチンとさせる才能にも長けており、私も幾度となく、まんまとやられてきている。そんな一枚上手なK君であるが、2年生になった今は、椅子にずっと座って宿題に取り組めるようになっていたり、「玄関に脱ぎ散らかしてある、サンダルや靴を片付けてね~」と皆に声をかけると、K君が一番に片付けてくれることがよくある。

成長しているK君の姿が、私にまた大切なことを教えてくれていた。

「子どもはね、必ず成長するから心配しなくても大丈夫だよ!!」って。

K先生、また一つ勉強になりましたよ!是非、引き続きご指導を宜しくお願い致します。



Episode2 17歳・男児

毎日、運動会の練習をしている小学生。夕食時にも、つい応援歌を歌いだした。職員が注意しても聞かない様子を見ていた高校生Y君も止めに入る。その高校生を幼い時から知っている職員が「Yも小学生の時、同じように歌っていたのを思い出すよ。」と話すと、「そうだったか。じゃ、注意できる立場じゃないなぁ。」と言って、小学生に「歌っていいぞ。」と言う。でも、ちょっと考え直して、「今度は俺が注意する番だから、やっぱり食事中は歌っちゃダメだ。」と言う。子どもの優しさが見え隠れした食卓の一コマであった。



Episode3 8歳・男児

職員に暴言を注意されたW君がこう言ったとのこと。「俺は今まで大切にされなかったから、人を大切に出来ないんだ。俺も大切にされたら、俺は、人を大切にすることが出来るようになるんだ!」と。とても大切なことを教えてくれる言葉である。暴言に対しては当然職員の「注意」も必要であるが、W君が暴言を吐かないように「支援」する職員の関りが求められている。



Episode4 7歳・男児

ボナノッテで子どもたちに、「汚れてしまった心はどうすればきれいになるかな?」と質問してみた。用意していた答えは、「ごめんなさいと、お祈りをすれば心がきれいになるよ。」だったが、K君は、「人にやさしくする。」と答えてくれた。大正解である!!
※ボナノッテ:イタリア語で「おやすみ」の意味。聖ヨゼフ寮では創立者ドン・ボスコが残された伝統を受け継ぎ「晩の祈り」のあとに短いお話を子どもたちにしています。



Episode5 18歳・男児

ヨゼフから自立支援施設へ措置変更になり、現在自立援助ホームで生活しているS君。自立支援施設入所時からS君のことを世話している職員の方がヨゼフを訪問して下さり、その時廊下に置かれていたマリア様の御像を見て言った。「あっ、これはSが大事にしとったマリア様だ」と。信者でもないけど、ヨゼフを出てからも自立支援施設でも、マリア様のことを大事にしていたことを聞かされ、うれしく感じた。マリア様が引き続き、S君を守り、支えて下さるように祈った。



Episode6 10歳・男児

 ニコドーナツさんから、また突然のドーナツの差し入れがあった。ボスコ棟の分を届けに行った時のこと。今回は年長児から食べたいドーナツを選んで取ってもらうことにした。小4のR君の番が来た。そばには幼児のY君が自分の番はまだかと我慢しながら待っていた。すると、そのことに気づいたR君はもう一つ別のことにも気づいたようで、「今日はYの誕生日だから、Yが先にとっていいよ」とY君に声を掛けたのだった。Y君は満面の笑みを浮かべ「ありがとう!」と言って自分が食べたいドーナツを選んで取った。

取る順番をゆずってあげていたR君のさりげない優しさ、子どもの素直な優しさが、見ていた私の心の中にも染みてきた。ほっこりと温かくなり、差し入れのニコドーナツは子どもたちだけでなく私の顔までニコニコにしてくれた。



Episode7 4歳・女児

「もうすぐしたらK兄の誕生日」と月末のその日を楽しみにして過ごしている。「あと5回寝たらK兄の誕生日なんよ」と指折り数えて教えてくれる。自分の誕生日ではなく、大好きなお兄ちゃんの誕生日が来るのをとても楽しみにしてニコニコしながら過ごしている姿を見て、とても素敵だなぁと思った。家族を大事に思い、大切に出来ることの中に、大きな幸せがあることを教えられた。



Episode8 12歳・男児

 「これ、どうしましょうか?」 ハッピーメッセージBOX(職員同士、感謝したりねぎらったりするメッセージ交換運動用の投書箱)の中のものを整理していた職員から相談を受けた。

BOXを開けて見ると、小6のS君が書いたメモが入っていたとのこと。見ると古紙に、五七五の短歌、いや標語のようなものが書かれていた。

「たのしいな みんなであそび つかれたな」

「たのしみは コロナがでたら なくなるよ」

「おとなはね しせつをまもる つよいひと」

「う~ん。こんなものはねぇ、こういうものは、そう簡単に、いや決してゴミ箱なんかには捨てられないんだよなぁ・・・」と困りつつも笑みを浮かべ、つい独り言を漏らしながら、皆が見る掲示板にこれらを掲示している自分がいた。S君、素敵な「ハッピーメッセージ」をどうもありがとう!



Episode9 マリア像の掃除

チャペルがある池の周りで遊んでいた子どもたち。そのうちの一人の子がチャペルの入り口に立っているマリア像に目を留め、小さな蜘蛛の巣が張っていたり、ところどころ泥で汚れているのに気が付いた。「マリア様を洗ってやろうよ!」と中学3年生のその女の子は皆に呼び掛けた。早速バケツに水を汲んできて、如雨露やたわしを準備すると、小4の女の子と小2の男の子も手伝い始めた。中3の女の子は、爪楊枝もいるとのことで、爪楊枝と古い歯ブラシを持ってきてあげると、細かいところまで丁寧に、詰まっていた汚れを落としてくれた。「今晩、マリア様の恩返しがあるかもね!米俵一俵とか。(笑)」と言うと、「米俵はいらん!」と笑う子供たち。最後にすすぎの水をマリア様の頭からかけて終えた。子どもたちの顔もすっきりとした明るい顔になっており、また遊びに行った。



Episode10 職員N(男性)

鹿児島に職員たちで研修に行った際、お土産屋さんに立ち寄った。その店では、全国から沢山の感謝状が届くほど効き目のある「馬油」を売っていた。皮膚の病気にとても効くらしい。その前で、腕を組んで悩んでいた職員は手に取った。小瓶に入ったその馬油、サイズの割にはやはり値が張る品物だった。自分のために買うのかと思いきや、彼が担当している小学校2年生の女の子のためのこと。皮膚の荒れがひどい状態で、それを常日頃心配していたようで、これが効くのであればと思ったらしい。自分の財布を開いて笑顔で買っていた。遠くにいても、子どものことを自分のこと以上に心配する職員の姿がそこにあった。



Episode11 4歳・男児

夕食前、3歳のS君がお母さんと一緒に外出から戻って来るも、別れが辛く泣いていた。夕の祈りの時、Y君のテンションが妙に高く、はしゃぎまわり、落ち着きがなく、皆からも注意をされていた。それでも落ち着く様子はなく、再度注意されてしまい、お祈りの後、とうとう激しく泣き出した。どうしたのか、本人によくよく話を聞いてみると、夕食前にS君が泣くのを見て、自分もお母さんに会いたくなり、寂しくなったとのこと。一人で抱えきれない寂しさを必死でごまかすために騒いでいたことが分かった。しくしく泣き続けるY君を抱っこして部屋に移動した。「お母さんに会えなくて寂しいね。Y君はいつも頑張ってんだけど、でも寂しいんだよね。我慢しないで泣いていいんだよ。悲しい時は泣いていいんだよ。お母さんも、きっとY君とMちゃん(妹)に会いたいと思っていると思うよ。でも会えなくて頑張ってるんだろうね。Y君たちのことも、会えなくても応援してくれていると思うから頑張ろうね」とY君の気持ちを代弁しながら声を掛け、泣き止むまで、優しく抱いてあげた。

何か普通と様子が違うとき、妙に子どものテンションが高い時、その子の心には、いつもと違う何かがあるサイン。それに気づいてあげることが大切であることを教えられた。今回はY君が話してくれたから理由がわかったものの…



Episode12 13歳・男児

ここ数年ずっと実の親との面会がないN君の誕生日。夜に親から電話が掛かってきた。「おめでとう」の言葉をもらったようで、すごく嬉しそうにしていた。なかなか家族と生活できず、面会も無し。自分は拒否されているのではないかと感じているN君にとって、親からの一言はとても大きなエネルギーになったことだろう。後で職員から受けた報告によると、実は事前にN君担当の職員が、親にあらかじめ電話をして、N君にお祝いの言葉を一言掛けてくれるように頼んでいたとのこと。事前に頼んでいなかったなら、あの電話は無かったのかもしれない。



Episode13 9歳・男児、8歳・男児、4歳・女児

この日は、入所して初めての外泊。とてもうれしそうに興奮した状態で迎えに来た母親と一緒にヨゼフを出て行った。ところが、その日、家の電気は、支払いを滞納していたために止められてしまい停電となり、家で過ごせなくなった。母親はヨゼフに急遽戻るか、知人の家に行くか迷った様子。子どもたちの要望をのんで知人宅に泊まることになった。しかしこの初めての外泊、2泊の予定が1泊になってしまった。なんともしようがないが、これも現実。これが現実。



Episode14 幼い子どもたちの生活

幼い子どもたちの入所が増えた。彼らは健気にここヨゼフで生活を始め、その日々は続いている。実の親からの愛情を十分に受けられないまま、施設で暮らしている。もし自分がこの幼い子どもたちと同じ立場だったら、ヨゼフでどのように生活するのだろうか想像してみた。いつもそばに親がいて、兄姉に囲まれて過ごしていた自分にはとても想像出来はしなかったが、もし入所していたとすれば、自分は職員に何を求めるのだろう?職員にどういう関わりを期待するのだろうか?自分が求めるであろう関わりを今、自分は、ヨゼフの職員はしているだろうか?



Episode15 職員T(男性)

職員Tさんは、何か深刻な顔をして事務所に入ってきた。「ちょっと相談したいことがあるんですが…」「どうしたの?」「事務所の台所洗剤を少し分けてもらってもいいですか?」と。どうやら、子どもたちと一緒にシャボン玉遊びをするために、せっけん液を作ってみたが、うまくいかず、困り果ててしまったらしい。そこで「JOY」を借りに来たとのこと。子どもたちと楽しい時間を過ごすために、真剣に悩んでいる職員の姿がそこにあった。きっとここから本当の「JOY」(喜び・楽しみ)が生まれてくるのだろう。がんばれ‼

「ありがとうございます‼」と言って、職員Tさんは元気よく事務所を出て行った。



Episode16 4歳・女児

阿蘇ファームランド。聖ヨゼフ寮の皆で行く旅行が実現した。きっと皆で楽しい思い出として記憶に残る旅行になることを期待して準備し、当日を迎えた。皆で温泉の大浴場を満喫して、いよいよ食べ放題のバイキング形式の夕食の時間。皆で大喜びで食事をしている中、一人Rちゃんの元気のない姿があった。熱があるのでもなく、お腹が痛む訳でもないとのこと。誰かに嫌なことをされたのでもなく、でも食事をしない。理由を聞いても何も話さない。翌朝、元気そうにしているRちゃんに、昨晩元気がなかった訳を尋ねてみた。「パパ、ママに会いたくなった」と。確かに周りは、家族連れで来ているお客さんたちでいっぱいだった。ママとお風呂に入っている他の子どもたちを見て、寂しくなった様子。喜ばせてあげるはずが、逆に寂しい思いをさせてしまっていたことに気づかされた。心の中にある寂しさに気づかされた。食欲にも、食べ放題のバイキングにも勝る寂しさ、家族のぬくもりを素直に求める子どもの心があることに気づかされた。



Episode17 3歳・男児

昨日より39度の発熱があり、服薬しても38度台が続いている。夕の祈りの時も額が熱く、触るだけで十分わかるぐらいで、引き続き部屋で休ませる。皆でお祈りをしようとすると「Tちゃんもお祈りする」と言う。皆の祈りが終わった後、Tちゃんの所に行くと、「お祈りする」と言う。「じゃ、Tちゃんが早く元気になれるようにお祈りしようか」と言うと、布団の上に正座して、一緒に「主の祈り」と「アベ・マリア」の祈りを唱えた。するとTちゃんは、もう一度すると言う。それで今度はお母さんのために祈ることにした。祈りの後、不思議なことに高熱が下がっていた。



Episode18 15歳・女児

私がヨゼフに入職した時はすでに「もうすぐヨゼフ出る」と話していた彼女。幼児さん、小学生、中高生が幼稚園や学校に行くのと同じように、彼女は毎日バイトに行っていた。ある日の夜、いつものように中高生と雑談をしている中で、彼女は私に「親にお金貸してって言われとんよね」とさらっと話す。私は思わず「そんなん『自分で働いて稼ぎ』ってママに言いや。Hちゃんだって毎日バイト頑張って貯めたお金やん」と言ってしまった。彼女は私をちらっと見て、依存気味の携帯に目線を戻す。「自分でもいろいろ思うし考えるんよ。正直言うとめっちゃ迷っとる。見返りもないし、ムカつくし、働けっち思う。でもやっぱ自分を産んでくれたたった一人の親やし、助けたいとかも思うんよな」と笑って話す。後日 園長先生とも相談し、結局5万円を貸すことになったらしい。もし、経験年数を重ねた今の自分が同じ状況になった時、Hちゃんに何と言うだろう。答えはまだ出ない。「親は子どもへ無償の愛を注ぐ」と世間的にはよく言われているが、本当は子どもが親へ無償の愛を注いでいるのではないかと、とても考えさせられた出来事だった。



Episode19 11歳・女児

Sちゃんとよく二人で話す機会があり、その日はSちゃんのいる棟の職員についての話しになった。「K職員の時はみんなおりこう」「H職員のときはみんな言うこときかない」など話し出したので、「H職員は優しいからね」と返すと、「H職員優しいけん好き」とかえってきた。子どもには、職員の優しさは伝わっていて、優しい職員に甘えを出してしまっているんだなと思った。その後棟の職員のいいところがSちゃんからいっぱいでてきた。人のいいところを見つけるのは難しいことなのにSちゃんからいっぱい出てきたのは普段から職員がSちゃんを褒めていることが想像できた。『子どもは大人の鏡』という言葉がとてもよく実感できた出来事だった。



Episode20 11歳・男児

K君に対し部屋の使い方や学習面に少し厳しくしていた自分がいた。本児に少しでも出来るようになって欲しいと強く思っていた分、本児には厳しく言ってしまう事が多々あった。本児も自分が悪いと解かっているが認めたくないと反発があった。自分自身彼からはあまりいい職員ではないと思われているだろうと感じていた。ある時、副園長先生が話してくれた。彼との話しの中でK君が「自分をよく見て思ってくれているのはT兄」と言っていたと聞かされ、本児に対してしてきた事が伝わっていたことがとても嬉しかった。少しでも本児の成長につながるように今後も支援していこうと思った。



Episode21 12歳・男児

小学校の運動会終了後、母親と外出の予定であった。弟、妹と外でボール遊びをして待つがなかなか母親は、迎えに来ない。職員が母親に連絡をとるが「今向かっているので、もうすぐ着く」と話す。しかし一向に現れる気配がない。そこでW君に「お母さん迎えに来るの遅いね」と話すと、「でもママを責めることはできない」と言う。本当は、時間通りに迎えに来ない苛立ちと母親に早く迎えに来て欲しいという気持ちがあると思う。しかしその気持ちを抑えて母親を庇う姿を見て、W君に対してどのような声かけをしたらよいか正直わからなかった。普段職員を困らせるような言動をとる裏には、寂しさや甘えたい気持ちがあるということを理解して気持ちに寄り添って関わりをする必要があると思った。



Episode22 6歳・男児

日曜日の夕方に一時帰省から帰ってきたTくん。送ってきた実母と妹と何事も無く別れ、棟に戻ってくる。戻って来たときはいつもと変わらない表情を見せ、帰省中に行ったところや、したことを職員に話してくれる。夜が近づくにつれて、だんだんと落ち着きがなくなってくる。食事中に席を何度も立ったり、「これ食べたくない」と日頃言わない好き嫌いを言ったり、就寝の時に「まだ寝たくない」と何度も布団からでて、部屋の外に行ったり・・・。日頃言わないわがままに対して、職員は、ついTくんを叱ってしまう。最近行われた園内研修でTくんについてケースの見立てが行われる。Tくんは、家でお利口さんに振舞うことで我慢をしているのではないか・・・。そういった見立てがあった。次に帰省からTくんが帰ってきたときは、「どんなことがあったの?」「我慢したね」「野菜を少し減らそうか?」と声をかけてあげたい。



Episode23 12歳・男児

誕生日外出に出かけた日の事である。ステーキを食べに行ったり、「ヒマラヤ」に誕生日プレゼントを買いに行ったり、チョコレートスムージ―を飲みに行ったりと楽しい時間を過ごしていた時、W君の顔からはとても嬉しそうで楽しそうな笑みがこぼれていた。移動していた時、車中でW君からいきなり「俺がヨゼフを出るまではずっと俺の担当のままでおってほしい」と言われたのである。急に言われたこともありビックリしたが「がんばる」と一言伝えた。W君の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのでその時の内心は嬉しい気持ちと戸惑いで一杯だったが、本当に頑張ってきて良かったと思えたのだ。今後、くじけそうな日もあると思うがW君からの一言を胸に抱きながらもっと頑張っていこうと思った。

最後に車から降りる際に笑顔で「ありがとうございました!」と言い棟に戻って行った。少しずつ成長している姿に嬉しく感じ、この日は僕にとって特別で忘れられない日となった。W君ありがとう!!



Episode24 10歳・男児

他の子を車で送迎する際、K兄弟を連れ出そうと声をかける。兄のS君が「どうして誘ってくれたの?」と聞いてきたため、「入所して間もないし、お母さんが来て外出するとかがないから、送った後にちょっと一緒にイオンでも行こうかなと思ったの」と答えると、S君は泣き出してしまう。涙の理由を聞いてみると、「優しくしてもらったことが嬉しかった」とのこと。この涙を見て、これまでS君が優しくされた経験がなかったのではないかと思い、優しい声かけをしていかなければと感じた。また、子どもを泣かせるのはよくないと思っていたが、このような泣かせ方(うれし涙)ができる関係を作っていきたいと思った。



Episode25 5歳・男児

元々発達障がいがあり、理解できずに不注意なことをしてしまうA君。以前から水が好きで、キッチンから水の音がすると見に来ていた。それが最近蛇口を持って動かしたり、泡が落ちているシンクに手を伸ばして流しきれていない具材を拾おうとする。つい、水が床に落ちる事や泡の付いた手を口に入れる事を先に想像してそれを止めてしまっていた。ある日、もう水が落ちても拭けばいいやと見守っていると、水が溜まっていないお皿に蛇口を動かして水を入れていっている。具材を拾って三角コーナーに入れている。いたずらや好奇心と思っていた行動は、A君なりの手伝いだった。子どもは自分が思っているよりもはるかに成長が早い。同世代の子どものように出来ることは少なくても、A君なりに一生懸命優しさをくれようとしていた事に気付かされた。日々成長だね。いつもありがとう。



Episode26 11歳・女児 & 10歳・女児

ある日、外出に出かけるというK,HとM.K。「S兄!お小遣い出して!」とお願いしてきた。「無駄遣いしないようにね」「自分の欲しいものだけ買ってくるんだよ」と、私は2人に伝えた。普段から、「上手な買い物」ができるように教えることは自立する為にも必要だと私は感じていた為、この日もいつもと変わらず、声を掛けた。2人とも「うん!わかってるー!」と言い、お小遣いを受け取って外出した。次の日、2人がニヤニヤしながら私の方へと近づいてきた。どうしたものかと、2人に笑いながら声を掛けると、ふたりそろって「S兄誕生日おめでとう!!」とプレゼントを渡してきたのだ。とても驚き、「これどうしたの!?」と話を聞くと、外出の時に渡した少ないお小遣いで、私宛の誕生日プレゼントを2人で購入してくれたとのことだった。外出の際に購入したものは、私宛のプレゼントだけだったという。驚き、嬉しさと共に、「無駄遣いをしないように」と義務的に伝えた私を恥じる機会となった。



Episode27 17歳・女児

よく話しかけてくれるMちゃん。ある日「妹にお弁当を作ってあげたいんやけど、どんなんがいいかな」と相談にきた。料理に対して興味を持ち、誰かのために作ってあげたいという気持ちを持ってくれたことに嬉しく思った。翌日、「S姉の分も作ったよ」とかわいく詰められたお弁当を渡された。普段は作る側である私は、自分の為に作ってもらった事がすごく嬉しかった。その思いやりの詰まった温かいお弁当に、喜びや仕事に対してのやりがいを教えてもらった気がした。おかげでこれからも頑張ろうかなと思えた。ありがとう、ごちそうさま。



Episode28 12歳・男児・2019年11月15日

「もう来たん!。いっつもいい時に来るんなぁ。お祈りなんかせんよ‼」

夕食後、TVを観てくつろいでいる時に、皆で一緒にお祈りするために現れた私に決まって文句を言うW君。職員も「お祈りするよ」と声を掛けると、あぁ面倒くせ~と言わんばかりの態度でふてくされた顔をしながら渋々座る。と思いきや、出来れば早く祈りを終わらせたいという気持ちからだろうが、集まってもなかなか落ち着かない幼児さんらに向かって、「早く座れ!」「ちゃんとしろ!」と注意してくれるのはW君。いざ祈りが始まると、しっかりとした大きな声で祈りを唱えているのもW君である。

お世話になった松野さんが亡くなった晩、遺体が安置している所に行って祈りをするのに希望者を募ると、W君が弟と一緒に手を挙げた。もしかすると死体を見てみたいとか不純な動機で行きたがっているのではと、変な勘繰りが頭をよぎったが、それはそれで彼にとっては貴重な体験になるかもしれないと思い、遺体が安置されている葬祭場に一緒に行った。やはり恐る恐るご遺体に近づいていたが、「感謝して、ご冥福を祈ろうね」と声を掛けて一緒に祈りを始めると、目をつぶり、手を合わせ、深く頭を垂れて祈り始めた。祈り嫌いのW君が真剣に祈っていた。祈り嫌いの真剣な祈りほど、真の祈りはない。W君の心のなかにまぶしく光るものがあるのを確かに感じられ、嬉しくなった。



Episode29 学童児童

運動会後の「まりあ」の子どもたちは、とても荒れる。「わがまま」「激しい言葉使い」「支援員への攻撃性」「指示が入らずやりたい放題」など普段より少し困りが増え、特定の児童についてミーティングを持つこともある。「まりあ」で困りのある子どもの共通しているのは、「学校でも頑張っている」、「家でも頑張っている」。学校でも出せない、家庭でも出せないそんなストレスを「まりあ」で出せているのだろう。通常子どもたちにとっては、自分の家庭でストレスを吐き出せる「受け止めてくれる安心感」があると思う。しかし、「まりあ」で困りをだす子どもは、その「受け止めてくれる安心感」が「まりあ」にあるのだと思う。残念なことではあるが、ある子どもたちにとっては「まりあ」が第二の家庭として子どもたちの居場所になれていることが幸いだと感じる。



Episode30 9歳・女児

いつも私に対して冷たいRちゃん。今日は、遠足のおやつを買いにみんなで駄菓子屋へ。途中で私の体調が悪くなり、うずくまってしまった。他の子どもは、「大丈夫?」と声をかけてくれたが、Rちゃんは少し距離を置いて私を見ていた。

他児が他の職員について車をとりに行っていたがRちゃんだけは私の隣に座り込んで何も言わず一緒にいてくれた。安心感を与えてくれ、「自分もこんな風に子どもを支えてあげなければ」と改めて思わせてくれるような出来事だった。



Episode31 8歳・男児

とある日の夕食。いつものように児童みんなで仲良く遊んでいる際に、K君は一人バランスボールに座って遊んでいた。座るだけでは飽きてきたK君はバランスボールを投げて遊び始めた。他児に当たったら怪我をするかもしれないと、職員が行為を止めるよう注意する。するとK君の怒りスイッチが入り「うるせえ!なんで止めないけんのか!もういい!絶対(バランスボール)触らんし!」と悪態をつき始めた。一度怒るとなかなか収まらないK君。職員は距離をとり洗濯物を畳み始める。15分程するとK君は職員の所に歩み寄り「さっきは酷いこと言ってごめんね。」と謝りに来た。「投げたりしないなら、またボール使って遊んでもいいよ」と伝えると、「ありがとう」と笑顔でボールの所へ行き、きちんと約束を守りながら楽しそうに遊び始めた。自分の悪かったことを、ちゃんと反省し謝ることが出来て、また、約束事もきちんと守りながら遊ぶ姿に嬉しさと感動を覚えた日だった。



Episode32 11歳・女児

自分が女の子と暮らし始めて、3年も経った。毎年11月になると 「今年はあるかなー?いや、さすがに今年はないやろー」と思う出来事がある。それは、Sちゃんからの誕生日プレゼント。Sちゃんは毎年毎年、11月中のお母さんとの外出時に自分の誕生日プレゼントを買ってきてくれるのだ。しかも、中身が自分の好きなものばっかりで、よく自分の好みを把握してるなぁと感心してしまう。そんなことを思いながら、今年はあるのか期待していると・・・。なんと今年も誕生日プレゼントをもらえた!とても嬉しかったので「Sちゃん毎年毎年ありがとう!めっちゃ嬉しいわ!!」と伝えると、そこには照れるSちゃんの姿が…。

子どもからどんな形や物でも良いので貰えたりするととても嬉しい気持ちになる。この嬉しい気持ちを担当の子どもや棟内の子どもだけではなく、聖ヨゼフ寮全員の子どもたちにも味わわせてあげることが出来たら良いと思った。



Episode33 男性職員・2019年11月

令和元年11月15日(金)午後1時頃、長年ヨゼフで働かれたH.Mさんが84歳で亡くなられた。ドン・ボスコ学園に荒れた農場を一人でコツコツと草刈りを行い、今の美しい聖ヨゼフ寮へと変えてくださった方だ。大阪の児童養護施設から中津に送られて来て、その後多くの仕事を経験され、67歳頃に再びヨゼフとの出会いがあり、以降17年程働いて来られた。平成30年に退職し一人で生活していたが、突然の死であった。身寄りもなく、Mさんのため中津カトリック教会で通夜と葬儀を行ったが多くの参列者が彼の人柄を物語っている。長く苦しい人生であったが、今は神様の元で安心しておられることであろう。Mさん、ありがとう。



Episode34 10歳・男児

S.K君と体育館へ行く。他の児童と自転車、スケボーなどで楽しく遊んでおり、「スケボー上手だね」と声を掛けると「ヨゼフに来て教えてもらった。一緒に滑ろう!教えちゃるけ」と言う。S.K君は乗り方を教えてもらったことで楽しみや喜びを味わい、今度はその喜びを他の人にも伝えるために教えていこうとする思いが伝わってきた。その豊かな心に触れられて、嬉しくなった。



Episode 35  7歳・男児

公用車(フィット)の掃除をしていると、「何しよん?」と言い、近づいて来て「Kもする」と言って手伝ってくれる。普段落ち着きがなく、自分の思い通りにいかないとなかなか気持ちを切り替えることができないK君。でも掃除の時は、一生懸命目の前のことに集中して取り組む姿が輝いていて、カッコ良かった!! 掃除をし終えてK君が再び遊びに戻る際の後ろ姿が、今までと違い少し大きく感じた。

自分達が普段使っている公用車を掃除することは、人によっては、「当たり前のこと」だと思う人もいるかもしれない。でも積極的にお手伝いをして、綺麗に磨き上げることは容易なことではない。ましてや自由な時間を使ってまでお手伝いをしてくれたK君はすごいと思う。間違いなくK君の『キラッ』と光る長所の部分だと思う。

これからも子ども達と関わる中で、『キラッ』と光る長所の部分を見つけて子ども達に言葉にして返していきたいと思う。



Episode 36  5歳・男児

「これやりたい」「やってもいい?」と自分で遊びを見つけて職員に聞きに来るYくん。でも夢中で遊んでいる時に妹のAちゃんが遊びに入り、おもちゃを取られてしまう事もある。そんな時でも笑顔で「貸してあげる」「妹やけんいいよ」と譲ってあげていた。自分がしたい遊びを我慢して譲るのは、なかなかすんなり出来る事でもない。Yくんの優しさと妹を思いやる場面を見て、大人も相手の気持ちを尊重して受け入れる事、思いやることが改めて大事だと感じた。子どもの手本になれるよう、子どもたちからも良い所を吸収していきたい。



Episode 37 7歳・男児

K君はいろんな事に興味がそそられるために集中することが難しい。注意された時は泣きながら「嫌だ」、「話する」と繰り返し何度も言い、話が難しい事もあったが徐々に話をきちんとすることも出来るようになった。何が悪かったのかを説明できるようにもなり、少しずつ成長しているんだと実感している。今では、ひらがなの練習に必死に取り組み、勉強に対してとても意欲的で「早く勉強がしたい」と言ってくる。これからたくさんの課題がK君にふりかかってくるだろうが、K君なりにどんどん成長する姿を側でみていきたい。

頑張れ!!K君!!笑顔絶やさずどんな困難も乗り越えろ!!!! そしてK君の笑顔が大好き!!!



Episode 38  8歳・男児

「家をつくりたいから竹を切りに行ってほしい」とTさんが言う。「前にも園長先生がくれてるよ。足りない?」と伝える。Tさんは「どうしても足りない・・・」と悲しそうな表情をする。「じゃあ、行ってみようか」と言うと、本当に素敵な笑顔で「うん」と答える。竹を探し、汗だくになりながら切っている私へ「何も出来ないから応援するね。頑張れ!矢野ちゃん!頑張れ!矢野ちゃん‼。」と大きな声で応援する。私もTさんの注文に応えながら切り続ける。急に、Tさんの声のトーンが下がる。「矢野ちゃん。前にブタとか矢野とか言ってごめんなさい。」と言う。私はTさんの仲間になれた気がした。今までは、大人と子どもの関係だったが、そうではなく仲間や友達として受け入れてもらえたと感じた瞬間だった。



Episode 39 K.S(10歳・男児・2020年4月)

誰よりも率先して衞藤パパのお手伝いをしているS君。手を抜いたりサボったりすることもなく、熱心にお手伝いをしている姿は他の子どものお手本になっている。日常生活でも年下の子どもの遊び相手をしてくれたり、職員のお手伝いをしてくれるのでとても頼りになる存在。誰にでも優しく、決して人を傷つける事がないS君。S君は将来とても優しくて頼りになるお父さんになるんだろうな…。

仕事中にこんなことを考えさせてくれたS君に乾杯っ\(^o^)/!!



Episode 40  7歳・男児

注意をされたり、自分がしたくない事をするように求められると、あからさまに「ふん!」と拒絶して、「おれじゃないし!」とか「せんし!」と言ってその場から逃げようとするKくん。養育のプロになることを目指している私たち職員に対して、特にその場できちんとさせたいと思う職員に対しては、イライラを引き出す術に非常に長けており、その点については職員の一枚上手を行っていると言えるだろう。

子ども園を卒園し、入学式を間近に控えたある日の事、相変わらず使っていた自転車を中庭に乗り捨てて行こうとしていた。「Kくん、自転車をほったらかしにしないで、駐輪所に片付けてね。」と声を掛けると、「おれじゃないし!」と言って他のところに行こうとする。その背中に「さっき乗って遊んでたんだから、元に戻してよ。お願いしま~す。」と投げかけた。すると面倒くさそうだったが、自転車を戻しに行くことが出来た。

Kくんには、これまで何度もイライラさせられていたが、「子どもの成長というものは、長い目で忍耐強く見守りながら期待するものだ」ということに気づかされ、教えられた。Kせんせい、どうもありがとう。これからも学ばせて頂きますね。



Episode 41 5歳・男児

これまでの普段の生活の様子を知るために、Y君の「育成記録」を読み込んでみて、彼は「謝罪と感謝の言葉を伝える事が苦手な子」という風に私の中で捉えていた。

マザレロハウスとロメリハウスの児童で一緒にプールに行った際の話。Y君が、Sちゃんよりおやつのおすそ分けを貰った時のこと。AちゃんはSちゃんに向かって「ありがとう」と直ぐに言うことが出来ていたが、Y君はもじもじして言うタイミングを逃していた。私から、「ありがとうと素直に言えた方がかっこいいねぇ」とだけ伝え、様子を見守っているとボソボソとした声で「ありがとう」と言うことが出来た。何気ない「ありがとう」の一コマであったが、その場の雰囲気がほわほわとしたあったかいものになり自然と笑顔が溢れていた。こんな場面を少しでも増やしていけたらと思った。



Episode 42 12歳・男児

その日、帰省の児童が多く、また、外出イベントも重なり、棟内にはW君と一人の幼児さんと私の3人だけになった。

W君はいつも、私とサッカーをして遊ぶのを楽しみにしてくれており、当日も私が出勤すると、すぐに「今日サッカーしようや」と約束までしていた。約束の時間になったため、私と一緒にグランドに出る。すると、すぐにグランドの端で幼児のH君が寂しいと大泣きするのである。私が慰めに行こうとすると、W君が「いいよ。俺が行ってくる。」と言い残し「H君おいで。泣かんで大丈夫よ」と歩み寄り幼児さんと手を繋ぎ棟に戻って行った。

ソファーに2人で座り、泣き続けているH君を優しく撫でてあげながら「大丈夫よ」と優しく声を掛け続けている。H君が見やすい様に膝の上に座らせ、彼が好きなゲームをやって見せて、落ち着くまで、ずっとずっと優しく対応してくれていた。

普段、活発で落ち着きがないW君が、自分が大好きなサッカーをする時間を削ってまで幼児さんに優しく接している姿に、感動させられる一日となった。



Episode 43  21歳・女性

ある日卒園生のYちゃんが「子どもと職員の分あるけ、あげて」とチョコレートケーキの差し入れを持ってきてくれた。突然の事だったので、これどうしたの?と聞くと「バレンタインやけ作った」と笑顔で答えてくれた。朝から作っていたことや作り方などを楽しそうに話してくれている姿を見ていると、当時を思い出して懐かしく思った。また、微かに残ったケーキの温かさとともに、少し不器用な彼女なりのやさしさと思いやりが伝わってきて嬉しく思った。


Episode 44  9歳・女児

私はとても悲しい出来事があり、気分が沈みきったまま翌日の出勤日を迎えた。「このままではいけない、仕事では切り替えなくてはいけない」そう自分自身に言い聞かせながら、自宅の鏡で自分の顔を見ながら顔をパチンと叩き、いつもの表情を作り、気合を入れなおして出勤した。「おつかれさまでーす。」いつものように軽い挨拶をしながら扉を開けると、机の上でお絵かきをしていたKちゃんがいた。振り向いて、「あ、S兄!やっほー!」と元気な挨拶をしてきた後、私の顔を見るなりキョトンとした顔をしていた。「どうしたの?」とKちゃんに話しかけると、帰ってきた返事に私は驚かされた。「どうしたのって聞きたいのはKのほうだよ、S兄何かあったの?」と心配そうに話しかけてくれた。「表情も声のトーンもいつもの自分と変わらない、自分は切り替えたはずなのに。」そう思っていたが、子どもは大人の些細な変化や雰囲気を大人以上に感じ取っている。子どもの観察力を改めて実感させられたことと共に、Kちゃんの心優しい気持ちに自分の心が洗われるような気持ちになり、心の靄が晴れたことを今でも覚えている。Kちゃんありがとう!



Episode 45 幼児全般 

幼児さんたちの生活で、攻撃的、物欲的になり、他の幼児が遊んでいる物を取ったり、投げたりするなどして落ち着きがなくなり、話が全く入らない時の事。10時ごろに、おやつとしてお菓子を食べさせ、お茶を飲ませた。その後は先ほどとは違って、とても落ち着くことができ、周りが温和な雰囲気に包まれていた。食事の影響力を思わされる出来事であった。自分としては、正直あと2時間もすれば食事になるから、それまで子どもたちはたぶん待てるだろうと考えていたが、子どもの状態を良く観察して、適切に対応する必要があることに気づかされた。



Episode 46  21歳・女性

Yさんは小2でヨゼフへやって来た。小中高と進み就職した卒園生である。独特の個性の持ち主でもあった。私は、ヨゼフで働き始め40年以上が過ぎている。付き合って来た子ども達から「嫌われた」と思う子どもはあまり多くない。決して全ての子どもから好かれたわけでもない。疎まれながらも「まぁ許してやろう」位の好かれ方だったと思う。Yさんからは、はっきりと嫌われていたと言えるだろう。そんなYさんが社会人として、働きながらも時々顔を見せていたが、就職後も嫌われ方は変わらなかったと思う。2年程働いた頃、ある時、仕事には行くが住む所が無くなり困り果て、職業指導員の職員にSOSのサインを出して来た。色々な関わりを行い、最終的に自宅に戻り再スタートとなり、私がYさんを40分の道のりを自宅まで送ることとなった。車中私が「Yさん、社会人になって色々苦労したなぁ」とねぎらった。「苦労したのは社会に出るずーっと前からや」と彼女は一言告げた。その一言の言葉の重さがずしりと私の心に届いた。「そうだなぁ、小さな体で抱えきれない程の荷物を背負い生活して来たんだなぁ。ここに住む子ども達も同じ気持ちなのだ」と改めて考えさせられた。



Episode 47 13歳・男児

R君が小学校5年生の頃から彼の学習の取り組みを見てきている。字がとても汚く、学習に集中できない事も多く、書き直しをしたり、集中するように声掛けをしたりと本児をよく注意していた。次第に字はうまくなり、学習の取り組みも真面目に取り組めるようになってきた。6年生になると更に学習に集中出来るようになり、自分からに取り組む様になった。本児の成績も次第に伸びてきている。中学生になっても、変わりなく学習に取り組むことが出来ている。決してあきらめず、丁寧に継続して取り組ませる事が大事なんだと私も学んだ。



Episode 48 17歳・女児

口も悪く、言動も激しめなY。私が棟に入ってすぐの頃は挨拶すらも完っ全無視だったが、少しずつ「うん」という返事になり、そのうち「ただいま!聞いて、今日こんなことがあってなー…」と話してくれるようになった。泊まり勤務の日の夜、翌日の朝食は初めての目玉焼き。思わず「目玉焼き嫌やー。上手に作れん」と漏らすと、Yは「大丈夫、Yが早起きして皆の目玉焼き作っちゃる」と言い、翌朝 本当に早起きしてきた。「Yが目玉焼き作りよる間に、K姉がそっち作りよったら早く終わるけな」と言い、全員分の目玉焼きを作ってくれた。お礼を伝えると「K姉はいつもYの話聞いてくれたり、Yが何かしたらすぐお礼言ってくれるけ、Yも何かしてあげたくなるんよな」とのこと。誤解されがちな彼女だが、いつか先輩職員の誰かが「関われば関わる分だけ返してくれるのがY」と言っていたのを思い出した。

「頼りない職員ですみませんなあ(笑)」と言うと、「まあYがヨゼフにおる間は全然頼りなくていいけどな」とYらしい可愛いツンデレな返事が返ってきた。



Episode 49 14歳・女児

私の誕生月は12月だ。翌月の1月、少ししてNさんがおこづかいを出してもらって外出した。その時は「本屋に行くー」と言っていたが、帰園すると小さな白い小箱を持っていた。そして「誕生日おめでとう。遅くなったけど、ケーキです」と言って小箱を渡してくれた。実は先月から誕生日のプレゼントを考えてくれており、ケーキを渡す予定だったとのこと。あまりの嬉しさに少し涙ぐみながら感謝を伝え、食べてしまったら形に残らないため、ケーキの写真を数枚撮った。ふとした時に写真のフォルダを見た時に、この時の嬉しさを思い出すだろう。

約1年前に色々あって、彼女と振り返りをしている時に厳しいことを伝えざるを得ず、2人で事務所の一室でぽろぽろと涙を流したこともあった。今までもこれからも色々あると思うが、楽しいこともきついことも一緒に体験して乗り越えて行きたいと改めて感じる事が出来た一日だった。



Episode 50 15歳・男児

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、子どもたちは毎日の生活を施設の中だけで過ごす日々が続いている。そんな生活の中、Sくんは施設のすぐ隣にある野池で、ブラックバス釣りというものに勤しむようになった。あそこではブラックバスはそう簡単に釣れない。まったく釣れない日の方が多い。そんな日が続いても、Sくんは足繁く野池に通う。黙々と竿を振っては、リールを巻く。その甲斐があってか、Sくんは野池での釣りを始めてから、ブラックバス3匹を釣り上げている。男子棟ではトップの成績である。Sくんは、勉強が苦手で人との関わりも得意ではない。本人も自覚しており、自尊心も低い。そのSくんがブラックバスを釣り上げたときは、「あ、つれた。」と一言、はにかんだような笑顔を見せてくれる。日頃、Sくんがポータブルゲームをしているときに、たとえラスボスを倒してもその表情を拝むことはできない。Sくんは、釣りを通して達成感と喜びを感じているのだろう。私は、その経験が自信につながることを期待している。それと、Sくんを釣りへと誘った職員Tの存在は大きいと感じている。



Episode 51 小学生男児兄弟

他で使わなくなった乗り物の車のおもちゃを棟に置いていると、幼児2人が楽しそうに競うようにして乗って遊んでいた。その合間をぬって小学生の男の子たちがいい顔をして乗って遊んでいる姿を見かけた。話を聞くと「幼い頃に乗って遊んだことがない」とのことで「楽しい」と言っていた。

幼いときの環境で経験できなかった事を今取り戻しているのだと感じた。同じように幼児にはお母さんを求めるような言動がある。どのように満たしていくかは男性の自分にはできないことと感じている。

子どもたちの成長のためにもいろいろな経験を積み重ねていくようにしたいと思い直した。



Episode 52 7歳・男児

施設に入所している子どもたちにとって職員は、親代わりをしているにしても「赤の他人」に変わりはない。毎朝小学生の登校支援をしているが、小学一年生のR君は、私の手を握って登校している。私が手を差し出すと握ってくるときもあれば、本児から私の手を握ってくるときもある。右手を握ったり、途中で左手を握ったりしながら一緒に歩く。手袋の上からでも、優しく小さな手のぬくもりが感じられる。私はR君の「赤の他人」なのに、R君は私のことを信頼して、安心して手をつないでくれている。そのぬくもりを通して、R君が私のことを愛してくれている、大事に思ってくれていることが私の心に伝わってくる。

「愛するだけでは足りない。愛していることがわかるように愛しなさい・・・」彼のように私ももっともっと、ごく自然に、飾ることなく、さりげなく、子どもたちを愛していることを伝えられるようにしていきたいと思った。



Episode 53 2歳・男児

ものごとはわかっているがまだ言葉を話せないSくん。ある日の食事前にこういうことが起きた。他の子ども、職員の茶わん、箸などを覚えていて、このテーブル席にはこの箸、茶碗をおくことを手ぶりで教えてくれた。その賢さがとても素晴らしくそこに居合わせた職員、子どもたちに感動を与えてくれた。Sくんは、言葉では伝えられないが、食べて空になったお茶碗をみんなに見せて、全部食べ終わったことをアピールしたりもする。

言語化できないところを行動で表してスゴイと感心させられる。これから少しずつ言葉を覚えていくのだろうが、Sくんにとってはスゴクスゴク大変なことだろうと思う。みんなと遊びながら少しずつ、楽しく言葉を学んでいけるといいなと思う今日この頃である。



Episode 54 高1・男児、中2・男児

大人しい性格の2人。ヨゼフ外では、人との関わりが少ない2人だが年下児からは頼りになるお兄さんって見られている。

R君は何事に対してもキッチリしていて、たまに厳しい事も言うがその分優しくしてくれて、ゲームも運動も遊びも参加してくれるお兄さん。

S君は言葉遣いも物腰柔らかく、ゲームも運動も遊びも参加してくれるお兄さん。

2人とも違ったタイプのお兄さんだけど、年下の子どもからは人気者。

君たちの日々の関わりが子どもたちの記憶に残って、大きくなったら君たちみたいなお兄さんになっていくのを考えると楽しみで仕方ない。理想的なお兄さんに成長してくれてありがとう。



Episode 55 5歳・男児、11歳・男児

ドライブするのが大好きなAくん。外で一緒に散歩をしているとAくんが私の手を引き、車に近づく。車のドアを開けて欲しいとばかりに触り、私の手を車のドアに押し付けている。Aくんはしゃべることができない。「Aくん、車でドライブしたいねー」と本人に声をかけるが私はまだ入職したばかりであり、公用車の運転をすることができず複雑な気持ちであった。Aくんは諦めず車のドアを何度も触っている。私自身どうしようか悩んでいたところ、職員のSさんがたまたま通りかかり「どうしたの?」と尋ねる。私が事情を説明するSさんはAくんが触っていた車のカギを持ってきてくれ開けてくれた。その時ちょうどKくんがきて「俺Aくんと一緒に乗ってあげるよ」と言ってくれる。KくんがAくんを抱っこしてシートベルトを「カチッ」と閉めてくれる。Aくんはとても嬉しそうに笑っている。私はその場面を見てほっこりした気持ちになった。私はKくんのAくんを思いやる優しさと職員Sさんの柔軟な対応に助けられた。車の運転はできなくてもKくんの思いを尊重し行動することが大切であることに気付かされた。私は今でもAくんのあの笑顔が忘れられない。



Episode 56 年中→小3・女児

2015年度末、退所する数日前に「K姉のこと大好きで。ヨゼフにおったことは絶対忘れん」と言ってくれていたMちゃん。「児童養護施設で生活していたことがある」なんて、大人になるにつれて段々思い出したくない思い出になっていくのではと思いつつも、その言葉をとても嬉しく感じたのを覚えている。

2019年度になってMちゃんが別の施設に一時保護されているという話を聞いていた。すると、10月のサッカー大会にて まさかの数年ぶりの再会!!自分の顔を見ると、「K姉!」と呼んでくれ、その後は二人でたくさんの思い出話をして過ごした。おっとりしているところや可愛い物好きなところは相変わらずだったが、あの時幼児だったMちゃんももう小3。退所する時に渡したアルバムを今も大事に持っていると言い、「宝物。K姉からの手紙も、とっちょんよ」と教えてくれた。

子どもが施設を退所していく時、“もっと良い関わりができたのではないか”といつもいつも後悔する。Mちゃんがいた当時は、子ども約15名の縦割りでの生活。幼児も多く、個別にゆっくり関わる時間も限られていた。しかし、笑顔でヨゼフの話をするMちゃんを見ていて、Mちゃんの中でヨゼフにいたことが温かい良い思い出になっていることが嬉しかったし、何よりもMちゃんの成長した姿を見れたことがとても感慨深く、思いがけない嬉しい再会もあるもんだなと思った。



Episode 57 小1・男児

小学校から帰ってきて事務所に「ただいま」と元気よく挨拶をしてくれる2人。

その目的は事務所でもらえるグミだ。それも一粒(笑)

最初の頃は「ただいま」と言う声も小さく、言えない日もあったが、1年たった今では、大きな声で「ただいま」と挨拶ができ、しかも手の消毒まで自分からすることが出来るようになった。大人にとってはたった一粒のグミでも、子ども達にとっては挨拶が出来、手の消毒が出来るようになるご褒美になってしまうのだなと微笑ましく思い、ついつい新しいグミを見つけると買ってしまう自分がいる。



Episode 58 12歳・男児

言葉足らずなところがあり、また注意力が散漫であるが故に自分からもよく注意されるS君。その際S君は、いつも涙を流して注意を聞いている。

ある夕食の時、他児が職員による寝かせ付けについて話をしていると、S君は自分以外の職員の時は寝かせ付けに来てもらっていると話していた。自分には声をかけてくれないのか尋ねると、固まり涙を流し出した。怒っているわけではない事を伝え、再度聞いてみると「声をかけてはいけないと思っていた」と答えた。それを聞き「そんな事ないよ、来て欲しい時はいつでも声をかけてね」と伝えると。自分が泊り勤務の時はほぼ毎回声をかけてくれるようになった。

お互いに話しをすることで気持ちが分かり合え、良い関係を築けて行けるのを感じられて嬉しかった。



Episode 59 小4、小5・男児

就寝前にいつも「マッサージして」「耳かきして」と元気よく声をかけてくれるK兄弟。マッサージを受けている時や耳かきをしてもらっている時は、本当に気持ち良さそうな表情をしている。またその後の寝顔もなんともいえない満たされた顔をしている。ほんの数分間の時間だが彼らにとっては、至福のひと時なんだろうなと思う。K兄弟に限らず、愛情を求めている子どもは多い。その子ども達の愛情を全て満たすことは難しいが、日々頑張っている子ども達を癒し、充電を常にしてあげることができる存在になりたいと思った。



Episode 60 職員K(女性)

かなり前のことになるが、今の職場に久しぶりに戻った頃、当時の若い職員の一人が、子供達のことだけではなく、職員間のことなどで悩んでいて「私やめます。もう私がやめればいいんです。」などと訴えていた。優秀な職員だったので、ぜひヨゼフに留まってほしいという気持ちから、友人のN先生を紹介して悩みを聞いてもらうようにすすめた。後日、落ち着いた様子の職員を見てN先生との話し合いが良い方へ向かったことを嬉しく思った。又、N先生の存在の大きさを改めて感じた。



Episode 61 7歳・男児

とある日の棟日誌に記録されていたK君の出来事である。その日は注意散漫で何度も注意され、挑発的な態度をとっており、「ナーフしたい!何で外に行けんの!」と大声で叫んでいたとのこと。職員からは落ち着いて話が出来るようになってから外に行けることを伝えるとK君から「オチツクってなんなん。どうやってするかわからん」との発言がある。職員からすれば深呼吸をしたり、一人の時間を作ったりして落ち着くことは可能だが、K君に限らず子どもにとっては確かに難しい事である。本児からそのような発言があったことに、驚きと新たに成長した様子が感じることができた。また、自分自身にとって「落ち着くにはどうするべきか」ということも考えさせられた。子どもたちと関わる中で何も変化がなさそうに見えて、日々成長しているんだと実感した1日となった。



Episode 62  女児

 Mちゃんとリビングで絵を描いていた時の話である。別所に用事があり絵を描いている途中にMちゃんと私は、描いていたスケッチブックを机に置いてその場を離席した。リビングに戻ってくると、描いていたスケッチブックのキャラクターの左上あたりに、赤い色鉛筆で歪な形の丸が描かれていた。絵に対してのこだわりは強いMちゃんだった為、勝手に落書きをされたことに対して怒ってしまうのではないかと思い、近くにいた色鉛筆で遊んでいたHちゃんに「これ描いたのHちゃん?」と声を掛けた。「しまった!」という表情をしていたHちゃん。その場を何事もなく穏便な形で治めようと思い、どのようにフォローしようか、注意しようかと私は考えていた。すると、Hちゃんは「あ~、じゃあこうしようかな」と歪な形の丸を奇麗な形に塗りなおし、赤い丸を可愛らしい太陽に変身させ、周りに雲を描き、明るい絵に変身させたのだった。「ほら、可愛いでしょ?」と怒る事もなくHちゃんにニコッと微笑み、Hちゃんも笑顔になった。素敵なフォローをしてくれたMちゃんの対応に感心すると共に、「絶対に怒る」と決めつけてしまった私を恥じたエピソードだった。



Episode 63 15歳・女児

ある日、作業をしていたらNちゃんが、一緒にしたいとお手伝いをしてくれた。その際に好きな芸能人の話や、自分でおにぎりを作って食べるなどの話をしてくれ「すごいね!いつかNちゃんの作ったおにぎり食べたいなー」と言ったら、「やだよ(笑) めんどくさい」と少し照れていたが、数日後「はいっ!約束したけ」とキレイにラップに包んだおにぎりを持ってきてくれた。「ありがとう!いいん?」と言ったら「うん、じゃあね」と棟に戻っていった。その子の素直な優しさとぬくもりがにぎられたプレゼントにとても心が温まった。



Episode 65 6歳・男子

2歳で入所してきたAっくん。当初は笑いも泣きもせず全く無反応な状態で生活しており、この先どうなることかと心配だったAっくんだったが、もうすぐ6歳になる彼は、皆が愛情を注ぎながら関わってきた甲斐あってか、未だに言葉で会話は出来なくても、素敵な笑顔を見せ、大声で泣き、全身で感情を表出できる豊かな子に成長した。私を見つけるたびに近寄って来ては執拗におんぶをせがみ、背中に乗せるととても幸せそうな笑みを浮かべてくれた。

私のことを必要としてくれたAっくんが教えてくれた大切なこと。それは「愛するとは、その人を必要とすること。愛されるとは、その人から必要とされるということ」。愛の持つ一面に気づかされた。「この世の最大の不幸は、貧しさや病ではありません。誰からも必要とされていないと、感じることです。」というマザー・テレサの言葉を思い出す。

施設には、自分は家族から必要とされていないと感じつつ入所してくる子どもたちのケースが少なからずあるもの。Aっくんが私にしてくれたように、私もそんな子どもたちをはじめ、関わる人に対して同じようにしていけるように努めていきたいと思った。



Episode 66 不明・男性

新人の頃、知識も経験も無く、子どもとどう関わって良いかも分からない状態で、どんどん荒れていくT君を目の当たりにし、時には恐怖を感じることもあった。けれど、T君が周囲に暴力を振るう時、心は泣いている様に見えていた。T君は違う施設に行くことになったが、何もできなかった自分自身に、モヤモヤとした気持ちが残った。

卒園から十数年後、T君が来園した際に「あの時(入所時)は、ごめんね。苦しんでいたのに、何もできなくて、本当にごめんね。」と思い切って伝えると「違うんよ。そうじゃないんよ。何かをして欲しいとかじゃないんよ。」「姉ちゃんには、“そのまま”でいてほしいんよ。」という言葉がかえってきた。

未熟で何もできない私に対して、抱えきれないほどの辛い過去を背負い、今でも苦しみ続けているであろうT君がかけてくれたその温かい言葉に、それまで心に引っかかっていたモヤモヤも、試行錯誤しながら、迷い、苦しみ、幾度となく涙した日々も、全て報われた様な気がした。その後も、この言葉が、どれほど私の心を強くしてくれたか。この言葉を実際に耳にした時の気持ちは言葉では言い尽くせない。この出来事は生涯忘れることは無いと思う。



Episode 67  5歳・女児

 KちゃんはSくんのお姉ちゃん。2つしか年が離れていないのに、自分が抱っこをされたくても、Sくんいいよと言って自ら降りたり、Sくんが抱っこをして欲しそうにしていると、Sくんを抱っこしてあげてと言って、教えに来てくれたりする。私が怪我をしたりした時にも、大丈夫?まだ痛い?等と聞いてくれたり、きちんと見てくれたりする。

誰が教えたわけではないのに、小さい子や自分より弱い立場の子に対して、幼いながらに気遣うKちゃんを見ると、自分の事を置いておいて相手の事を思いやる気持ちの大切さに、いつも気付かされている。丁寧なKちゃんの気遣いを、自分自身も子供たちにすることが出来るよう、日々念頭において接することが出来ているか考えて過ごす様にしている。



Episode 68  6歳・男児、5歳・女児 、5歳・女児、2歳・男児

AちゃんとKちゃんのつかみ合いの喧嘩が始まると、きょうだいのYくんとSくんらがすぐに参戦する。YくんはKちゃんへ、SくんはAちゃんへ掴みかかる。子どもたちへ「暴力はやめようね」と伝えながらも、子どもたちのきょうだい愛♡が垣間見られた。家族と離れてヨゼフ寮にいる子どもたちだが、きょうだいを大切に思う気持ちはとてもステキだと感じた。これからも、暴力ではなく、違う形でのきょうだい愛♡をたくさん見られたら嬉しいな♡



Episode 69 2歳・男児 

朝食を遊び食べするSくん。「Sちゃんおはよう!!すごいなぁ、食べるの上手やねぇ!さすがお兄ちゃんやね~!!」とオーバーに褒める。本児はやる気スイッチが入り、すぐに食事を終え、着替えを済ませ、歯磨きをし、朝の準備をさっと終わらせた。朝の忙しい時間は「早く食べなさい!時間が無いよ!そんなことしない!」と大人も心の余裕がなくなり、ついつい口うるさくなりマイナスな言葉が多くなってしまう。しかし、少し意識して先回り戦法で、プラスの結果を褒めることで本人のやる気スイッチをonにすることが出来た!さらにその子は出来たことで褒められ、グッドサイクルが回った。折角、同じ時間を過ごすなら、ステキな時間をすごしたいなぁ。



Episode 70 職員M(男性)

近所の居酒屋で、冷えたビールで乾杯した後、「あれ、やばいっすね!」と嬉しそうに話す職員M。職員同士で行っている「ハッピーメッセージ」(職員がお互いに褒め合ったり、労ったり、感謝するメッセージの交換運動)、つい先日、その1学期分が、施設長より各々の職員に渡されたのである。その中には、職員だけではなく子どもからの応援や感謝のメッセージも含まれたりしている。職員のMさんは、職員からのメッセージはもちろんのこと、それ以上に子どもたちからもらったメッセージに大きな喜びを感じた様子であった。

「自分はあれ見ながら何杯でもいけるっす‼」と興奮しながら話し、今出された鳥皮の串を頬張り、生ビールで流し込んでいた。「褒められたり、感謝されたりすると、やっぱ嬉しいっすね~。 ・・・ 。あぁ~、もっと子どもたちのことを褒めないとなぁ・・・」と喜んだり、反省したりのM兄。

M兄、体験したからこそわかるその喜び、その大切さをしっかりと心に刻みながら、子どもたちのために頑張っていこうや! では、あらためて乾杯!!

暑かった夏が終わろうとしている。日焼けとともに一皮むけた職員がいた。



Episode 71 小5・女児

入所して2か月弱が経ったRちゃん。最近素が出始めて職員から注意される機会も増えて来ている。

ある時、夕食までに時間が余ったため見当たらないRちゃんへ、入浴の確認をしに彼女の自室に行った。すると、いつもはしていない学校の準備を言われずとも一人で黙々としている姿があった。「え、Rちゃん学校の準備しよんの?偉いやん!」という問いかけに「うん!先にしとったらいいやろ!」とニコッと笑顔で答えてくれた。嬉しくなって一緒にハイタッチを交わした。褒められることの嬉しさ、褒めることの大切さ、嬉しいことを共有することの大切さを再確認した瞬間だった。



Episode 72 18才・男児

 幼少期から家庭の事情で施設生活を余儀なくされたN君。乳児院や里親を経験した後、就学前にヨゼフに入所。そこから約12年の月日が流れる。施設内、特に学校では荒れた態度で職員や先生に悪態をつくことが多く、時には物を職員に向かって投げつけるなどの行為も見られた。また、ヨゼフの生活に嫌気がさし、園を飛び出して、実家まで自転車で帰ることもあった。そんなN君が高校卒業間近な時期にこんなことを口にした。

「施設の生活は自由がなかったり、約束事を守らねばならないけど、家にいては経験できないことも経験できた。ここはいつも誰かいるし、旅行とか映画を見に行ったりすることもできる。家の人は仕事もあるし、旅行とか行けない。だから、ここにきて良かった面もたくさんある。6歳でここにきて、12年間たったけどそんなに長く感じていない。」

私はこのN君の言葉にすごく感動させてもらえたとともに、今後ヨゼフを卒園、退所していく子どもたちにも、N君が思ったようにヨゼフの生活が良かったと思ってもらえるような、より良いヨゼフにしたい!と思わせてくれた言葉だった。



Episode 73 9歳・女児

私が関係作りに一番悩んでいたUちゃん。最近、泣いた顔や怒った顔をよく見るUちゃん。ある日、Uちゃんは水遊びをしていた。私も一緒になってびしょ濡れになり、Uちゃんと並んで熱い地面に寝転がった。私がUちゃんの動きや声を真似すると、Uちゃんは私の目を見ながらケラケラ笑っている。あんなに無邪気な笑顔で真っ直ぐに見つめてくれたことは初めてだったので、とても嬉しかったことを鮮明に覚えている。濡れた服で熱い地面に寝転がると心地よく、Uちゃんも同じように感じているのかなと思ったこともよく覚えている。子どもとの関係作りで最初に大切なのは「一緒に遊ぶこと」という理由が一瞬にして分かった気がした。一緒に遊んでいると、子どもと同じ目線に立つことができ、子どもだけではなく私も心を開きやすいんだと気が付いた。子どもたちの笑顔は宝物で、この可愛い笑顔を守りたいと思った。



Episode 74 15歳・女児

 しばらく登校できない日々が続いていた頃のNさん。皆の食事の準備を早めに出て来て始めていた。厨房に料理を取りに行き、全員分の食器を並べてつぎ分けていく。黙々とやっている。手伝おうとすると「いいっ」と言う。「じゃぁ、お願いするね」と任せると頑張ってくれる。学校には行けないが、何か役に立ちたいと彼女なりに決めた行動だと思った。自分と向き合いながら成長していけるように、そっと見守って「ありがとう」と声を掛けることにした。



Episode 75 職員T(女性)

入職して間もないTさんが持ち場の棟で、苦労していると聞いていた。なかなか会う機会がなかったが、時々外で掃除をしていると「おはようございます」と声を掛けてくれるTさん。ゆっくり話を聴いたり、話をしたりしてあげたいと思いながら、チャンスが無いのが残念である。彼女が持ち場に慣れて子どもたちと楽しく過ごせる日が早く来ればと、いつも心の中で応援している。



Episode 76 5歳・女児

いつもの朝食時、Kちゃんの弟のSくんがお茶をこぼしてしまった。気づいた職員が対処しよう落とした時、自分も食事中だったKちゃんが急いで席を立って弟のところに行こうとした。いつも弟に気を配っていたのだと思うと、その優しいお姉ちゃんの姿に心が暖かくなった。



Episode 77 11歳・女児

ミサの時のこと。MさんがKちゃん(5歳)のそばで、優しくお世話をしているのに気が付いた。そう言えば最近テレビを見ている時や遊んでいる時に、MさんはKちゃんに対して優しくなったなと感じていた。(以前はきつい言葉を掛けていることもあったのに…)おそらくKちゃんのお母さんが亡くなったことを知って、自分もお母さんをなくした時のことを思い出したのかもしれない。悲しい体験から、優しい心を生み出したMさんが、とても成長しているのを嬉しく思った。